行列式
正方行列A∈Rn×nに対する行列式detA∈Rを定義する。
∣A∣と表記することもある。
まず、再帰的な定義を与え、その後に置換の偶奇を用いた定義を与える。
再帰的な定義
n=0について、det∅=1と定義する。
n=k+1について、k×k以下の行列式が定義されているとする。
n×nAに対し、k×kAiをAの第n−1列目と第i行目を除いたものとする。
detAiが定義されているので、
detA=defi∈n∑(−1)(k+i)detAi⋅ai,k
として定義する。
つまり、一番右の各要素について、行列を以下のように分割する。
a0,0a1,0⋮ai−1,0a0,1a1,1⋮ai−1,1⋯⋯⋯⋯a0,m−2a1,m−2⋮ai−1,m−2 ai,0 ai,1 ⋯ ai,m−1 ai+1,0⋮an−1,0ai+1,1⋮an−1,1⋯⋯⋯ai+1,m−2⋮an−1,m−2a0,m−1a1,m−1⋮ai−1,m−1ai,m−1ai+1,m−1⋮an−1,m−1
上記の左側の行列式と、右の今見ている要素を掛け合わせ、そしてそれらを、プラス、マイナス、プラス、…と交互に足し合わせる。kによってはマイナスから始まる。
=n×na0,0a1,0⋮an−1,0a0,1a1,1⋮an−1,1⋯⋯⋱⋯a0,m−2a1,m−2⋮an−1,m−2a0,m−1a1,m−1⋮an−1,m−1i∈n∑(−1)(k+i)ai,n−1k×k⋮ai−1,0ai+1,0⋮⋮ai−1,1ai+1,1⋮⋮⋯⋯⋮⋮ai−1,m−2ai+1,m−2⋮
n=1の場合。
==a0,0(−1)(0+0)(det∅)⋅a0,0a0,0
n=2の場合。
===a0,0a1,0a0,1a1,1(−1)(1+0)⋅a0,1⋅a1,0+(−1)(1+1)⋅a1,1⋅a0,0(−1)⋅a0,1⋅a1,0+1⋅a1,1⋅a0,0a0,0⋅a1,1−a0,1⋅a1,0
置換の偶奇を用いた定義
detn×nA=defσ∈S(n)∑sgn(σ)(i∈n∏aσ(i),i)
TODO: 以下は別の場所に定義
全単射σ:{0,1,⋯,n−1}→{0,1,⋯,n−1}を
長さnの置換という。σ全体の集合はこの置換は、その不変量として偶奇を考えることができる。置換σの偶奇sgnσ∈Nを、σの
証明
それぞれの定義が等価であることを証明する。
P(n):=i∈n∑(−1)(k+i)detAi⋅ai,k=σ∈S(n)∑sgn(σ)(i∈n∏aσ(i),i)帰納法による。P(0)は明らか。n=k+1とおいて、P(k)⟹P(n)を示す。
置換S(n)をk=n−1を動かさないものと、動かすものに分ける。
- SFIX(n):={σ∈S(n);σ(n−1)=n−1}
- SMOV(n):={σ∈S(n);σ(n−1)=n−1}
とする。すると、S(n)=SFIX(n)∪SMOV(n)であり、SFIX(n)∩SMOV(n)=∅である。
======i∈n∑(−1)(k+i)detAi⋅ai,ki∈n∑(−1)(k+i)σ∈S(k)∑sgn(σ)(i∈k∏aσ(i),i)⋅ai,ki∈n∑(−1)(k+i)σ∈SFIX(n)∑sgn(σ)(i∈k∏aσ(i),i)⋅ai,ki∈n∑σ∈SFIX(n)∑((−1)(k+i)sgn(σ)(i∈k∏aσ(i),i)⋅ai,k)i∈n∑σ∈SFIX(n)∑(sgn(σ⋅⟨i,k⟩)(i∈k∏a(σ⋅⟨i,k⟩)(i),i)⋅a(σ⋅⟨i,k⟩)(k),k)i∈n∑σ∈SFIX(n)∑(sgn(σ⋅⟨i,k⟩)(i∈n∏a(σ⋅⟨i,k⟩)(i),i))σ∈S(n)∑(sgn(σ)(i∈n∏aσ(i),i))(P(k)を展開)(分配則)最後、∑i∈n∑σ∈SFIX(n)は(σ⋅⟨i,k⟩)(i)を介してS(n)全体をイテレートすることを用いた。これは、もとのシグマ2つは、kの移動先iで分岐していると考えるとよい。
■
行列式の性質
行と列は対称的
σは全単射なのでσ−1を考えて、
==detn×nAσ∈S(n)∑sgn(σ)i∈n∏aσ(i),iσ∈S(n)∑sgn(σ)i∈n∏ai,σ−1(i)
になるが、当然ながらσ−1全体の集合全体もまたS(n)になる。
そのため、
=detn×nAσ∈S(n)∑sgn(σ)i∈n∏ai,σ(i)
が言える。
以下で述べる列に対する性質は、行に対しても成り立つことになる。
これは、∣A∣=∣tA∣であるということに他ならない。
列の定数倍
=⋯c⋅ak⋯c⋯ak⋯
証明
===(左辺)σ∑sgn(σ)⋅aσ(0),0⋯(c⋅aσ(k),k)⋯aσ(n−1),n−1c⋅σ∑sgn(σ)⋅aσ(0),0⋯aσ(k),k⋯aσ(n−1),n−1(右辺)(行列式の定義)■
列の線形性
=⋯ak+a′k⋯⋯ak⋯+⋯a′k⋯
列の交代性
=⋯ai⋯aj⋯−⋯aj⋯ai⋯
証明
置換σと、iとjの互換⟨i,j⟩を適用することをσ⋅⟨i,j⟩とかく。つまり、
(σ⋅⟨i,j⟩)(k)=⎩⎨⎧jiσ(k)if k=iif k=jotherwiseとなる。
========(左辺)σ∑sgn(σ)k∈n∏aσ(k),kσ∑sgn(σ)k∈n∖{i,j}∏aσ(k),kaσ(i),iaσ(j),jσ∑(−sgn(σ⋅⟨i,j⟩))k∈n∖{i,j}∏aσ(k),kaσ(i),iaσ(j),j−σ∑sgn(σ⋅⟨i,j⟩)k∈n∖{i,j}∏aσ(k),kaσ(i),iaσ(j),j−σ∑sgn(σ⋅⟨i,j⟩)k∈n∖{i,j}∏a(σ⋅⟨i,j⟩)(k),ka((σ⋅⟨i,j⟩)(j),ia((σ⋅⟨i,j⟩)(i),j−σ∑sgn(σ′)k∈n∖{i,j}∏aσ′(k),kaσ′(j),iaσ′(i),j−σ′∑sgn(σ′)k∈n∖{i,j}∏aσ′(k),kaσ′(j),iaσ′(i),j(右辺)(行列式の定義)(iとjは分ける)(iとjの互換を考える)(体に関する分配則)(先述の定義より)(σ′:=σ⋅⟨i,j⟩とした)(後述)最後は、S(n)⋅⟨i,j⟩={σ⋅⟨i,j⟩;σ∈S(n)}=S(n)であるから、σ′はすべてのS(n)の要素をイテレートする。
注目すべきは、最後の行のiとjが互いに逆になっている点だ。
■
同じ値を持つ列がある場合、行列式は零
=⋯ai⋯ai⋯−⋯ai⋯ai⋯
つまり、A=−Aという形になるが、(ai,j)=−(ai,j)=(−ai,j)より、ai,j=0となる。
零列を含む場合、行列式は零
0⋅0=0であるので、
===⋯0⋯⋯0⋅0⋯0⋅⋯0⋯0
となる。
ある列の定数倍を、異なる列に加えても行列式は変化しない
===⋯ai⋯(aj+c⋅ai)⋯⋯ai⋯aj⋯+(c⋅⋯ai⋯aj⋯)⋯ai⋯(ai+aj)⋯+0⋯ai⋯aj⋯
次数の低下
ある列が、ひとつの要素を除いて0である場合、次のように、より小さな行列の行列式のみを考えれば良くなる。
他の性質から、交換を2回以下行うことで、(符号の変化を除いて)以下のような形のみ考えれば良いことになる。
=a0,0a1,0⋮an−1,00a1,1⋮an−1,1⋯⋯⋱⋯0a0,m−1⋮an−1,m−1a0,0a1,1⋮an−1,1⋯⋱⋯a1,m−1⋮an−1,m−1
定義行列式の定義と性質を用いるとすぐにわかる。
系: 上三角行列の行列式は対角成分の総積
行列式の定義と性質を繰り返し適用すると以下のようになる。
a0,0a0,1a1,1⋯⋯⋱a0,m−1a1,m−1⋮an−1,m−1=a0,0⋅a1,1⋯an−1,m−1
下三角行列についても同様である。
このことから、detI=1も従う。
基本行列と行列式
今までの性質を基本行列で表現し直していく。
- ∣Pi(c)A∣=c∣A∣
- A=Iを代入すると、∣Pi(c)∣=cより、∣Pi(c)∣⋅∣A∣とも書ける
- ∣Pi,j(c)A∣=∣A∣
- A=Iを代入すると、∣Pi,j(c)∣=1より、∣Pi,j(c)∣⋅∣A∣とも書ける
- ∣Pi,jA∣=−∣A∣
- A=Iを代入すると、∣Pi,j∣=−1より、∣Pi,j∣⋅∣A∣とも書ける
系: 基本行列Pについて、∣PA∣=∣P∣⋅∣A∣
右側に関する∣AP∣=∣A∣⋅∣P∣も同様に、列基本変形を考えるとよい。行列式は行と列に関して対称であることを思い出す。
系: 基本行列の行列式は0ではない
定理: 正方行列Aについて。Aが正則行列⟺∣A∣=0
証明
⟹について。
正則行列Aについて、簡約化を考える。
⟹⟺P0P1⋯Pp−1A=I∣P0P1⋯Pp−1A∣=∣I∣∣P0∣⋅∣P1∣⋯∣Pp−1∣⋅∣A∣=∣I∣(両辺の行列式を考える)(TODO をp回適用)となるが、∣I∣=1であるため、∣A∣=0。
⟸については、対偶を考える。正則行列でない正方行列Aについて、簡約化を考える。
PA=X ⟹⟺∣PA∣=∣X∣∣P∣⋅∣A∣=∣X∣(両辺の行列式)(上記の議論より)Xは零行を含む。含まなかったらX=IとなってAが正則行列でないことに反する。よって∣X∣=0である。
上記議論より∣P∣=0なので、∣A∣=0となる。
■
定理: ∣AB∣=∣A∣⋅∣B∣
証明
Aが正則行列の場合について。簡約化を考えてPA=I、A=P−1=Pp−1−1⋯P1−1P0−1となる。行列式の定義と性質をp回適用して
∣AB∣=∣Pp−1−1⋯P1−1P0−1B∣=∣Pp−1−1∣⋯∣P1−1∣⋅∣P0−1∣⋅∣B∣
となる。
Aが正則行列でない場合について。TODOより、ABも正則行列でないため、両辺はそれぞれ0だとわかる。
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系: ∣A−1∣=∣A∣−1
証明
⟹⟺⟺AA−1=I∣AA−1∣=∣I∣∣A∣⋅∣A−1∣=1∣A−1∣=∣A∣−1(両辺の行列式)(TODO)■
行列式の計算方法
ガウスの消去法に似た方法で、上三角行列を目指せばよい。