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行列に関する基本的な定義

行列(matrix)の等価性

(row)数と(column)数が等しい行列ABが等しいのは、各要素(element)も等しいときであり、A=Bと書く。

つまり、(ai,j)=(bi,j)    def i,j [ai,j=bi,j]

(1234)=(1234) (1111)(0000)

零行列(zero matrix)

零行列とは、すべての要素0 ((zero)) であるような行列のこと。

O (オー) と表記する。数と数は前後の文脈から容易にわかる場合にしばしば省略する。

O=(oi,j) としたとき、 oi,j=0 となるような行列と定義される。

2×2零行列の例

O=(0000)

正方行列(square matrix)

正方行列とは、数と数が等しい、n×n行列のこと。

対角成分(main diagonal)

対角成分とは、i=j であるような要素 ai,j のこと。正方行列でなくともこう呼ぶ。

下記の例で言う、アスタリスクのある位置が対角成分

()

クロネッカーのデルタ(Kronecker delta)

クロネッカーのデルタとは、以下のように定義される関数(function) δ:N×NR である。

δi,j={1if i=j0otherwise

単位行列(identity matrix)

単位行列とは、正方行列であって、対角成分のみがすべて1で、他が0であるような行列IE と書かれることが多い。クロネッカーのデルタを用いて、I=(δi,j) と書ける。

また、 n×n単位行列In と書くこともある。

I4=(1111)

基本的には I が使われ、数と数は文脈から自明であることが多く、その場合は明記しない。
クロネッカーのデルタによる定義は、式による議論をする際に役立つ。

行列加算(addition)

n×m行列同士の和をそのままn×m行列になるものとして以下のように定義する。

(ai,j)+(bi,j)=def(ai,j+bi,j) と定義する。

(a0,0a0,1a0,2a1,0a1,1a1,2a2,0a2,1a2,2)+(b0,0b0,1b0,2b1,0b1,1b1,2b2,0b2,1b2,2)=(a0,0+b0,0a0,1+b0,1a0,2+b0,2a1,0+b1,0a1,1+b1,1a1,2+b1,2a2,0+b2,0a2,1+b2,1a2,2+b2,2)

系: 零行列行列加算単位元(identity)である

A+O=O+A=A

証明

CA+O とすると

ci,j=ai,j+oi,j=ai,j+0=ai,j

スカラー倍(scaling)

kRn×m行列 A について、k(ai,j)=def(kai,j)と定義する。

k(a0,0a0,1a0,2a1,0a1,1a1,2a2,0a2,1a2,2)=(kb0,0kb0,1kb0,2kb1,0kb1,1kb1,2kb2,0kb2,1kb2,2)

行列の符号反転(matrix negation)

任意の行列 A に対する単(term)演算子(operator) AA=def(1)×A と定義する。

行列減算(subtraction)

n×m行列同士の差を n×m行列になるものとして、 AB=defA+(B) と定義する。

系: (ai,j)(bi,j)=(ai,jbi,j)

これは自明だが、この系の背景で定義がどう働いているかというのを示すために証明を記す。

証明

(ai,j)(bi,j)=(ai,j)+((bi,j))()=(ai,j)+(1)(bi,j)()=(ai,j)+((1)bi,j)()=(ai,j+(1)bi,j)()=(ai,jbi,j)(に関する式変形)

スカラー倍行列加算の間の性質

  1. 可換則(commutativity): A+B=B+A
  2. 結合則(associativity): (A+B)+C=A+(B+C)
  3. 分配則(distributivity): k(A+B)=kA+kB

証明は省略。

転置(transpose)

行列An×m転置を、行列tAm×n=(tai,j)=(aj,i)として定義する。

つまり、対角線に関して反転(reverse)した形になる。

転置の例

t(123456)=(142536)

転置の性質

  1. t(tA)=A
  2. t(A+B)=tA+tB
  3. t(kA)=k(tA)

証明は省略する。

対称行列(symmetrix matrix)

対称行列とは、正方行列であって、tA=A行列Aのこと。

対称行列の例

(145426563)

交代行列(skew-symmetrix matrix)

交代行列とは、正方行列であって、tA=A行列Aのこと。

対角成分についてはai,i=ai,iとなるのでai,i=0となる。

対称行列の例

(012103230)

上三角行列(upper triangular matrix)

上三角行列とは、i>jについてai,j=0であるような行列

上三角行列の例

(abcdef)

下三角行列(lower triangular matrix)

下三角行列とは、i<jについてai,j=0であるような行列

下三角行列の例

(abddef)

対角行列(diagonal matrix)

対角行列とは、ijについてai,j=0であるような行列

上三角行列かつ下三角行列とも定義できる。

また、正方行列かつ対角行列n×n行列を、その対角成分を用いてdiag(a0,a1,,an1)と書く。

単位行列diag(1,1,,1)と書ける。

対角行列の例

(abc) diag(1,0,3)=(103) diag(1,1,1)=(111)=I3