行列の等価性
行数と列数が等しい行列AとBが等しいのは、各要素も等しいときであり、A=Bと書く。
つまり、(ai,j)=(bi,j)⟺def∀ i,j [ai,j=bi,j]
例
(1324)=(1324)
(1111)=(0000)
零行列
零行列とは、すべての要素が 0 (零) であるような行列のこと。
O (オー) と表記する。行数と列数は前後の文脈から容易にわかる場合にしばしば省略する。
O=(oi,j) としたとき、 oi,j=0 となるような行列と定義される。
2×2 の零行列の例
O=(0000)
正方行列
正方行列とは、行数と列数が等しい、n×n の行列のこと。
対角成分
対角成分とは、i=j であるような要素 ai,j のこと。正方行列でなくともこう呼ぶ。
下記の例で言う、アスタリスクのある位置が対角成分。
∗∗∗∗
クロネッカーのデルタ
クロネッカーのデルタとは、以下のように定義される関数 δ:N×N→R である。
δi,j={10if i=jotherwise
単位行列
単位行列とは、正方行列であって、対角成分のみがすべて1で、他が0であるような行列。I や E と書かれることが多い。クロネッカーのデルタを用いて、I=(δi,j) と書ける。
また、 n×n の単位行列を In と書くこともある。
I4=1111
基本的には I が使われ、行数と列数は文脈から自明であることが多く、その場合は明記しない。
クロネッカーのデルタによる定義は、式による議論をする際に役立つ。
行列の加算
n×m の行列同士の和をそのままn×m行列になるものとして以下のように定義する。
(ai,j)+(bi,j)=def(ai,j+bi,j) と定義する。
例
a0,0a1,0a2,0a0,1a1,1a2,1a0,2a1,2a2,2+b0,0b1,0b2,0b0,1b1,1b2,1b0,2b1,2b2,2=a0,0+b0,0a1,0+b1,0a2,0+b2,0a0,1+b0,1a1,1+b1,1a2,1+b2,1a0,2+b0,2a1,2+b1,2a2,2+b2,2
系: 零行列は行列の加算の単位元である
A+O=O+A=A
証明
C:=A+O とすると
ci,j=ai,j+oi,j=ai,j+0=ai,j
■
スカラー倍
k∈R と n×m の行列 A について、k⋅(ai,j)=def(kai,j)と定義する。
例
k⋅a0,0a1,0a2,0a0,1a1,1a2,1a0,2a1,2a2,2=k⋅b0,0k⋅b1,0k⋅b2,0k⋅b0,1k⋅b1,1k⋅b2,1k⋅b0,2k⋅b1,2k⋅b2,2
行列の符号反転
任意の行列 A に対する単項演算子 −A を −A=def(−1)×A と定義する。
行列の減算
n×m の行列同士の差を n×m の行列になるものとして、 A−B=defA+(−B) と定義する。
系: (ai,j)−(bi,j)=(ai,j−bi,j)
これは自明だが、この系の背景で定義がどう働いているかというのを示すために証明を記す。
証明
=====(ai,j)−(bi,j)(ai,j)+(−(bi,j))(ai,j)+(−1)⋅(bi,j)(ai,j)+((−1)⋅bi,j)(ai,j+(−1)⋅bi,j)(ai,j−bi,j)(行列の差)(行列の符号反転)(スカラー倍)(行列の和)(体に関する式変形)■
スカラー倍と行列の加算の間の性質
- 可換則: A+B=B+A
- 結合則: (A+B)+C=A+(B+C)
- 分配則: k(A+B)=kA+kB
証明は省略。
転置
行列n×mAの転置を、行列m×ntA=(tai,j)=(aj,i)として定義する。
つまり、対角線に関して反転した形になる。
転置の例
t(142536)=123456
転置の性質
- t(tA)=A
- t(A+B)=tA+tB
- t(kA)=k(tA)
証明は省略する。
対称行列
対称行列とは、正方行列であって、tA=Aな行列Aのこと。
対称行列の例
145426563
交代行列
交代行列とは、正方行列であって、tA=−Aな行列Aのこと。
対角成分についてはai,i=−ai,iとなるのでai,i=0となる。
対称行列の例
0−1−210−3230
上三角行列
上三角行列とは、i>jについてai,j=0であるような行列。
上三角行列の例
abdcef
下三角行列
下三角行列とは、i<jについてai,j=0であるような行列。
下三角行列の例
abddef
対角行列
対角行列とは、i=jについてai,j=0であるような行列。
上三角行列かつ下三角行列とも定義できる。
また、正方行列かつ対角行列なn×nの行列を、その対角成分を用いてdiag(a0,a1,⋯,an−1)と書く。
単位行列はdiag(1,1,⋯,1)と書ける。
対角行列の例
abc
diag(1,0,3)=103
diag(1,1,1)=111=I3